学際的研究への参画の意義

学際的研究(Interdisciplinary Research)は、単独の学問だけでは解決が難しい課題や研究テーマに対して、複数の学問を連携・融合させて研究することと定義されている。この数年、学際研究に参加する機会があった。これらに共に参画する研究者協力を得て、第120回日本精神神経学会に学際シンポジウム「精神医学の学際研究への参画と課題」を提案した。シンポジウムは日本精神神経学会法委員会からの提案によるものであり、オンデマンド配信されることとなった。そこに紹介された学際的研究をあげる。
一つ目は日本精神神経学会法委員会において取り組んだ「優生保護法下における精神科医療及び精神科医の果たした役割に関する研究」である。優生保護法下における精神科医療及び精神科医の果たした役割を明らかにすること、また、この問題をとおしての将来への示唆を得ることを目的として、優生政策への精神科医の関与の歴史的研究(日本精神神経学会と優生学法制、精神衛生と優生教育)、優生保護法への精神科医の関与の実証研究(公文書の分析、手術件数の多い都道府県の背景要因の検討、診療録を利用した研究の実現可能性の検討)、学会員を対象とした調査(質問紙調査、インタビュー調査)を行った。
二つ目は統計数理研究所共同研究集会として取り組んだ「新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行が自殺と自殺対策に与えた影響」である。その内容は本協議会報2022年号に紹介したが、それをまとめたものは大正大学地域構想研究所紀要「地域構想」第6号に掲載された。共同研究集会では、実践者からはCOVID-19流行下における支援の変化やオンラインによる取り組みとその課題、研究者からはCOVID-19流行下における自殺の実態や若者・女性の自殺増加の問題、COVID-19流行以前からあった問題と流行によって顕在化した問題などの議論があった。
三つ目は「日本における第二次世界大戦の長期的影響に関する学際的シンポジウム」である。第⼆次世界⼤戦は30カ国が関与し7,000万⼈以上が亡くなった世界史上最悪の戦争であった。これまでの研究は、世界のさまざまな国や地域において、第⼆次世界⼤戦が社会全体に⻑期的な影響を及ぼしていることを明らかにしてきた。しかし⽇本における第⼆次世界⼤戦のトラウマと⻑期的な影響についての研究は⼗分に共有されてこなかった。この学際的シンポジウムでは、実⾏委員会を組織し、2021年以降、⽇本における第⼆次世界⼤戦のトラウマとその⻑期的な影響について学際的に話し合う連続シンポジウムを開催してきた。
学際的研究においては、それぞれの学術領域の主体性を尊重した、円卓的な協働が必要となる。精神保健はそもそも学際的な性格をもつ。学際的研究の経験は精神保健をさらに鍛えるものであり、本協議会においてもそれに参画していきたい。

全国精神保健福祉連絡協議会
会長 竹島 正
(川崎市総合リハビリテーション推進センター所長)

過去のトピックス


2024.10.03
会報2023年号を掲載しました
2024.10.03
「自傷・オーバードーズを考える-相談支援におけるトラウマインフォームドケア研修」(11月11日)を開催します
2024.06.16
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2024.06.11
令和6年度総会記念 講演と座談「優生学と人間社会-科学史を糸口に」を開催します
2024.01.25
本協議会主催による保健所・精神保健福祉センター・市区町村等を対象にした「相談支援におけるトラウマインフォームドケア研修―虐待サバイバーとともに考える」(3月8日)を開催します
2023.10.30
2023年度統計数理研究所共同研究集会「持続可能な自殺対策の構築-自殺対策基本法20周年に向けて」(12月1-2日)を開催します
2023.09.22
会報2022年号を掲載しました
2023.06.03
7月19日に講演と対談「スピリチュアルケアとメンタルヘルスケアの連携―揺れ動く社会の中でー」を開催します
2023.05.15
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2023.05.15
役員名簿を掲載しました
2023.02.10
コラムを掲載しました
地方協会名簿を更新しました
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2023.01.10
令和5年2月17日・24日の2日間、保健所、精神保健福祉センター、市町村職員向けの相談支援におけるトラウマインフォームドケア研修を実施します(参加費無料、ウエブ開催)
2023.01.10
各都道府県等の精神保健福祉協会のサイトを掲載しました
2022.11.17
「行動制限最小化の普及のために−コア・ストラテジーとTICを学ぶ−」を開催します
2022.09.26
新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の世界的流行後における自殺予防・遺族支援のあり方に関する学際的研究集会「自殺対策の持続可能な発展に向けて」が開催されます。本協議会はこの研究集会に協力しております。ぜひご参加ください
2022.09.26
「日本における第二次世界大戦の長期的影響に関する学際シンポジウム2022-戦争について語ること、セーフスペースを考える-」を開催しています。本協議会はこのシンポジウムに協力しております。ぜひご参加ください。
2022.01.25
新型コロナウイルス感染症の世界的流行下における自殺予防・自死遺族支援のための学際的・共同研究集会の報告を掲載しました
2022.01.06
全国精神保健福祉連絡協議主催、TICCこころのケガを癒すコミュニティ事業(Trauma Informed Care/Community:TICC事業)の企画協力にて「第1回トラウマインフォームドケア企画研修」を開催します
2021.09.27
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2021.08.11
「Trauma Lens-こころのケガに配慮するケア」が公開されました
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2021.06.21
アーカイブスを設け、クラーク勧告を掲載しました
2020.04.21
トップページに「新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大-私たちにできること」を掲載しました
2020.03.11
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2020.03.04
ワークショップ「コミュニティのトラウマとメンタルヘルス-第二次世界大戦のトラウマとケア-」の要旨を掲載します

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